
2006年にRNAiの発見によって、クレイグ・メローとスタンフォード大学教授のアンドリューファイアーは、ノーベル医学生理学賞を受賞した。RNAi (RNA interference:RNA干渉) は、(外来性の)二本鎖RNAの一方と完全に相補的な塩基配列を持つmRNAが分解される現象であり、これまでのRNAの役割に対する認識を一変させた。natureのサイトにRNAiに関する動画がありましたので紹介から。
参考URL:http://www.nature.com/nrg/multimedia/rnai/animation/index.html
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siRNAについて
RNAにはmRNA、tRNA、rRNAのようにセントラルドグマを担う3種類の存在が知られている。これらのRNAの他に転写後制御に関わる重要なRNAが存在している。1990年にジョーゲンセンとモルらによりペチュニアに対する色素合成酵素遺伝子の過剰導入実験によって、ペチュニアの色素発現が抑制されるという結果が得られた。この現象は転写後( 1 )と呼ばれ、後にRNAiの機構解明への手掛かりとなった。1998年に( 2 )と( 3 )は、( 4 )を用いた実験により、RNAが遺伝子の発現制御を担っていることを発見し、2006年にノーベル医学生理学賞を受賞した。この実験では筋線維タンパクをコードするunc-22のエクソンに対応するセンスRNA、アンチセンスRNA、2本鎖RNA(センスとアンチセンスによる)をセンチュウの体内へ注入する実験により、注入された個体がtwicherの表現型を示し、そして上記の2本鎖RNAの注入個体と野生型の交雑により得られた個体にも同様の表現型が得られた。このことから、注入した2本鎖RNAがRNA輸送膜タンパクによって2本鎖RNAがセンチュウの体内全域に拡散し、更には生殖細胞にまで拡散されることで次世代に継承され、次世代においてもunc-22の発現が阻害され、上記のような表現型が得られたと考えられた。ここでの注入された2本鎖RNAの増幅には( 5 )が関わっていると考えられる。
ペチュニアにおいて上記の機構を見てゆく。もし仮に、細胞内において一本鎖RNAが過剰に存在していた場合、上記のRNA依存性RNAポリメラーゼによって、2本鎖RNAが合成される。そして( 6 )によって小さなRNA断片に切断されsiRNA (small interfering RNA)が生じる(注1)。そして( 7 )タンパクに取り込まれ、RISC (RNA-induced silencing complex)と呼ばれる複合体を形成する。そして、この複合体にはRNAse活性があるため、取り込まれた2本鎖RNAの一方は分解され、RISC内に残された1本鎖RNAと部分的に完全に相補的なRNAが細胞内にまだ過剰に存在している場合、それらと結合することでその標的RNAを分解することになる。この2本鎖RNAの一方と完全に相補的な塩基配列をもつmRNAが分解される機構をRNAi(RNA interference)と呼ぶ。(翻訳阻害ではなく、完全に相補的かつ分解であることに注意!)
このsiRNAによるRNAi機構は、センチュウにおいても見られ(注2)、単細胞の菌類、また植物においても見られる。この機構はRNAウイルスに対する生体防御機構としての働いていると考えられ、脊椎動物の獲得免疫応答と似た側面があると言える。侵入してきた外来性のRNAゲノムを撃退するためにRNAiを用いていると考えられる。その後、2001年にトーマストゥスキルらの実験によって、2本鎖RNAが細胞内に導入されると高等哺乳類でもRNAiが引き起こされることが判明した。これ以降、ある遺伝子に対してその遺伝のmRNAに相同な2本鎖RNAを細胞内へ導入することにより、遺伝子の発現を制御する手法である( 8 )が用いられることとなった。
さて、高等動物ではRNA依存性RNAポリメラーゼは存在しておらず、RNAiのような機構はヒトでは存在しないのか?という疑問が残る。高等哺乳類においては、siRNAの加工に関わる因子がmiRNAの加工に関わっていることがわかっている。(続きは穴埋め問題2へ)
(参考:1990年 ジョーゲンセンのペチュニアの実験 http://www.plantcell.org/content/2/4/279)
(参考:1990年 モルのペチュニアの実験 http://www.plantcell.org/content/2/4/291)
(参考:1998年 クレイグメローとアンドリューファイアーのセンチュウ実験 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9486653)
(参考:2001年 トーマストゥスキルのsiRNAがヒト細胞においてRNAiを引き起こした実験 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11373684?dopt=Abstract)
注1 :siRNAの定義は確立されていない。細胞外から導入されたRNA由来のもののみをsiRNAと呼ぶこともあるようだが、細胞自身のncRNA由来のsiRNAも存在する。また、それ以外にダイサーによって切断された2本鎖RNAがAGOに取り込まれて、1本鎖になったものをsiRNAと呼ぶこともあるようだ。このサイトでは、naturaの動画でも言われているように、細胞自身か細胞外から導入された2本鎖RNAがダイサーによって切断されて生じた低分子2本鎖RNAをsiRNAと呼ぶことにする。しかし、後述するが、miRNAはダイサーで切断された2本鎖RNAはmiRNA/miRNA✳︎と各々呼ばれているため、ダイサーで切断され、AGOに取り込まれて1本鎖RNAになったものをsiRNAと呼ぶ方がいいのではないかと管理人は考えるのだが、natureの動画はかのメローが監修しているようなのでそれに従うことにします。。。
注2:ペチュニアにおいては、RNA依存性RNAポリメラーゼによって、1本鎖RNAが過剰になると、1本鎖RNAから2本鎖RNAを合成し、Dicerで切断してAGOに取り込まれ1本鎖のsiRNAが生成したが、センチュウに関しては、1本鎖RNAから2本鎖RNAは合成されない。しかし、2本鎖RNAから2本鎖RNAを合成するRNA依存性RNAポリメラーゼが存在している。そして、2本鎖RNAが過剰になるとRNAiが発動する。ちなみにRNA依存性RNAポリメラーゼは高等動物には存在しない。
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miRNAについて
時を同じくして、1993年にヴィクターアンブロスらはセンチュウ用いた実験により、後胚発生に必要な遺伝子lin-4には、lin-4に対するアンチセンス鎖をもつ小さいRNAがコードされている、ということを見出した。これは世界初の( 1 )の発見であった。これは、2本鎖RNAから作られるsiRNAとは異なり、ゲノムにコードされているncRNAが遺伝子制御を行なっているというものであった。
このncRNAの生成について見てゆく。まず、ゲノムに存在するncRNA遺伝子が主にRNAポリメラーゼ( 2 )によって転写される。この転写産物である1本鎖RNAは核内でプロセシングを受けるため、5'キャップと3’ポリA鎖を有する。また自身で( 3 )構造を形成し( 4 )miRNAとなる。
核内では次に、酵素である( 5 )によって切断された後、( 6 )miRNAになる。そして、キャリアタンパクである( 7 )によって核外へ輸送される。
(以下siRNAと共通)
細胞質ではsiRNAの切断でもお馴染みの( 8 )によってさらに細かく切断され、約20程度の2本鎖の( 9 )miRNA(miRNA/miRNA✳︎とも呼ぶ)となる。そしてこの2本鎖RNAが( 10 )タンパクに取り込まれ、RNAse活性により2本鎖の一方であるmiRNA✳︎が追い出されて分解される。こうして残った、miRNAを含む複合体を( 11 )と呼ぶ。このmiRNAには5'側に7塩基程の( 12 )配列が存在し、標的mRNAの( 13 )領域(3'UTRと呼ぶ)に結合する。この配列は完全に相補的でなくても機能するため、1本のmiRNAは多様なmRNAを標的としていると考えられる。
siRNAとmiRNA以外のncRNAとしては長鎖ncRNAの存在が知られている。ヒトでは約8000種類以上存在すると考えられているが、まだ多くは解明されていない。しかし、長鎖ncRNA領域の一例としては、X染色体の不活性化に関わるタンパクXistをコードするXistが知られている。発生の初期において、雌の各々の細胞核ではX染色体の一方から転写産物Xistが作られる。転写されたX染色体は高度に( 14 )化され不活性化される。
(参考:1993年 ヴィクターアンブロスらのセンチュウにおけるlin-4の発見 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8252621)→世界初のmiRNAの発見
(参考:2010年 miRNAの総説 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3048316/#R1 )
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【ncRNA 記述対策 】
【ポイント】
- siRNAは、主にウイルスなど外来性の長い2本鎖RNAから生成する、20塩基程の2本鎖RNAのこと。(ココがmiRNAと異なる!)
注:自身の細胞由来のRNAから生じるsiRNAも存在するので、冒頭に"主に"と書いた。
- ダイサーで切断されて20塩基程になり、AGOに取り込まれ1本鎖になる。
注:定義が統一されていないので、このAGOに取り込まれた後、1本鎖になったRNAをsiRNAと呼ぶこともある。
- AGOスライサー活性の強い場合→標的mRNAは分解(RNAi)
- AGOスライサー活性の弱い場合→標的mRNAは翻訳阻害(アーゴノートが呼び寄せるサイレンシング因子による)
- 外来性のウイルス等RNAゲノム排除のための生体防御機構としての存在している。(ココがmiRNAと異なる!)
- 標的mRNAを分解するRNAiの機構はノックダウンにも用いられる。(ココがmiRNAと異なる!)
miRNAは内因性のゲノムにコードされているncRNAであり、1本鎖RNAから生成する約20塩基程の1本鎖RNAであり、遺伝子発現制御を行う。がん細胞と正常細胞におけるmiRNAのプロファイルに違いがあることがわかってきており、バイオマーカーとしての利用が期待されている。
【ポイント】
- miRNAはゲノム上にコードされていて、1本鎖RNAから生じる1本鎖RNAである事に注意。(siRNAとココが異なる!)
ダイサーで切断された後はmiRNAとmiRNA✳︎のと呼ばれる2本鎖になるので、miRNAは1本鎖である。
- 核内:プロセシング → pri-miRNA → ドローシャに切断 → pre-miRNA (Expotin5で核外へ) (siRNAとココが異なる!)
- 核外:ダイサーに切断されてmature miRNA(miRNA/miRNA✳︎) 20塩基程になり、AGOに取り込まれる。
- AGOスライサー活性の強い場合→標的mRNAは分解(RNAi)
- AGOスライサー活性の弱い場合→標的mRNAは翻訳阻害(アーゴノートが呼び寄せるサイレンシング因子による)
- がん細胞などでは、miRNAのプロファイルが通常と異なっており、診断や治療におけるバイオマーカーとしての利用が期待されている。(siRNAとココが異なる!)
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【ポイント】
siRNAはウイルスのRNAゲノム等、外因性の長い2本鎖RNAからダイサーによって短く切られて生成する2本鎖RNAであるのに対し、miRNAは内因性のゲノムにコードされてるもので、1本鎖RNAがヘアピンループを形成して核内でドローシャに切られ、核外でダイサーに短く切られて生成する1本鎖RNAのこと。
共通するのは、
- 短く切られて生成したsiRNAとmiRNAは共に、AGOに取り込まれRISCを形成する。
- AGOスライサー活性の強い場合→標的mRNAを分解
- AGOスライサー活性の弱い場合→標的mRNAの翻訳阻害
注意:siRNAに関して、外来性のウイルスRNAゲノムが発端となる場合、生成するsiRNAはその外来性のRNAゲノムである。その為、形成されるRISC内に存在するRNAが結合する標的mRNAは完全に相補的となり、分解される。(RNAi)
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【ポイント】
- ncRNAにはm、t、rRNA以外にsiRNAとmiRNA(他にもpiRNA)、そして長鎖ncRNA(例は後述するXist) があることを覚えておく。
【ポイント】
- RNAiについて書く。AGOのスライサー活性で標的mRNAに完全相補的に、かつ分解する。
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【ポイント】
- 3'-UTRとは3'末端側非翻訳領域のこと。UnTranslated Regionの略。mRNAのコドンより更に3'末端側に存在する領域であって、miRNAはmRNAの3'末端側非翻訳領域に結合する。
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【ポイント】
- 長鎖ncRNAの例といったらXist!これをすぐに思い出せるようにする。これはLyon現象に関係している。
【ポイント】
- 要は、siRNAとmiRNAのことについて書けば良い。
- 低分子RNAが遺伝子制御を行う→主に生体防御のためのsiRNAと、遺伝子発現制御のmiRNAが存在する。
- どちらの経路も低分子RNAがAGOに取り込まれてRISC形成後、1本鎖になって相補的なmRNAを分解、または翻訳阻害する。
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【ポイント】
- レトロトランスポゾンは逆転写酵素によって、自身のゲノムをコピーアンドぺーストで増やしてゆくことが可能である。
レトロトランスポゾンに関してはこちら→コチラ
【ポイント】
- piRNAとは、Piwi-interacting RNAの略である。
- Piwiタンパクと結合して作用するncRNAを指す。Piwiタンパクはアーゴノートのサブファミリーである。
- piRNA複合体は、生殖細胞におけるレトロトランスポゾンの発現制御に関わっている。
(参考:http://www.cell.com/molecular-cell/abstract/S1097-2765(07)00322-X)
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【ポイント】
- miRNAはエキソソームに包まれて細胞外輸送されていて、比較的安定している為、血液や尿をサンプルとして採取可能であり、バイオマーカーとして利用できる。また、がん細胞では正常細胞と比べてmiRNAのプロファイルが変化しており、がんの診断、治療に応用できる可能性が考えられている。 (参考文献:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16461460)
【ポイント】
- 抑制因子を抑制してしまう可能性、もしくは発現の抑制因子を抑制してしまう可能性の2つを書く。
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【ポイント】
seed配列と完全に相補的な場合はmRNAが分解!
seed配列と部分的に相補的な場合はmRNAが翻訳阻害!
この2つの方法で遺伝子発現を調節している。
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