
2018年の夏に、夏期休暇を利用して、インドに海外医療ボランティアに行ってきました。 自分は正直言いますと、いわゆるボランティア精神ありきの、大きな志があったわけではなく、当初の目的はただ単に夏休みにインドへ旅行をする予定でした。しかし、同期の医学科の学生の中には、世界の貧困や公衆衛生の改善に目を向けている人達もいましたし、話を聞いているうちに自分も興味が湧いてきたため、参加してみようかなと考えるようになりました。 自分が歯科医師ということもあり、発展途上国の貧困地域に於ける、公衆衛生や歯科治療の実際を見学してみたいという思いもありました。 また、僕はこの歳になるまで、恥ずかしながらボランティアというものに参加したことが一度もなかったということも、参加を決めた理由の一つです。街並み中心の動画ですが、下の動画にまとめました。
インド派遣に関して
インドへの海外医療ボランティア派遣は、ネットで検索しますと様々な形で募集がなされています。今回は、IFMSA(国際医学生連盟)という医学生団体(WHOの学生版)の公衆衛生部門Asia Community Health Projectを利用させてもらいました。 このプロジェクトは、コルカタにある、IIMC(Institute for mother and child)というマザーテレサの主治医であったDr.Sujitを代表とするNGO団体のへ学生がボランティアへ行くというものです。 期間は2週間以上から数ヶ月(希望による)ですが、自分は2週間ほど滞在しました。 僕の参加した期間では、ドイツ、イタリア、エジプト、スウェーデン、などヨーロッパ系の医学生が多く参加しており、他にも建築学科の学生や、バイオ関係の仕事についている人まで様々参加していました。 費用に関してですが、現地ではIIMCの宿泊施設に泊めてもらえるので、宿泊費は無料です。しかし、渡航費用やインド内での移動費などの旅費は支給されません。また、Donationという形でいくらかIIMCへ支払うというものでした。(自分は約2週間の滞在で、7〜8000円払いました。)
インドに行くためのワクチン接種
インドに行くためには、まずワクチンを接種しなくてはなりません。インド大使館のホームページによりますと、インドへ渡航する際には
- A型肝炎
- B型肝炎
- 破傷風
- 日本脳炎
- 腸チフス
- 狂犬病
- ポリオ
などのワクチン接種が推奨されています。(強制ではないが打つべき) ただ、インド内のそこらへんの路上には、狂犬病ウイルスを有している可能性の極めて高い野良犬がウロウロしています。狂犬病ウイルスは、犬に噛まれるともちろん感染しますが、舐められるだけでも唾液から感染します。また、発症すると致死率100%ですので、自分もワクチンを接種しました。 しかし、これらの接種は保険が効かないため、正直インドに行くだけでも数万円かかってしまいました。同じ医学生であるのにもかかわらず、ワクチンを接種せずにインドへ渡航している人もいましたが、正直考えられませんね。。当然命には変えられないので、インドへ行かれる方は必ずワクチンを接種するようにしましょう。
また、自分は一応マラリア対策としてもマラロンという、マラリア対策薬を私費でですが、処方してもらいました。これはワクチンではなく、錠剤となっており、インドへ出発する2日前から飲むというものでした。
インドビザの発行
自分はビザの発行に時間がかかってしまい、派遣期間が数日遅れてしまいました。当初は短期間で取得できるe-visaというインドビザを考えていました。このインドビザの取り方としては、
- 書類を郵送で取得する
- e-visaをオンラインで取得する
- 直接大使館に行って取得する
- 代行で取得する
などいくつかの方法があります。e-visaはオンラインで取得が可能であるため、日本中どこにいても取得することが可能です。自分は、e-visaでの取得を考えていましたが、ここでまさかのリジェクトを2回もされてしまいました。このインドビザは、オンラインでの申請のため、そのリジェクト理由をはっきりと教えてはくれず、非常に困りました。また、申請する度に申請費用として3000円弱かかります。 インドビザは、写真の規格とその審査がかなり厳しいと聞いてはいましたが、街中の写真機でも全然申請がおりた、ということも友人から聞いていましたので、簡易的な写真でトライしましたがそのような結果に。 結局、『インドのビザ用写真を撮影します』を謳っている写真屋さんで撮影をしてもらい、東京のインド大使館に直接申請に行き、3日で受理されました。 e-visaは短期間で取得できますが、申請が受理されなかった場合は理由が不明確で非常に困るので、かなり早めに申請するか、東京の近くに住んでいれば、直接大使館に申請する方が良いと感じました。
インドへ出発から現地、IIMC本部到着まで
今回はタイのドンムアン空港経由でインドへ向かいました。インドの空港はチャンドラ・ボース空港で、そこから車で1時間くらいかけてコルカタの中心部に到着です。上はIIMCの本部であるゲストハウスです。ここに、ボランティアの人たちが一年中入れ替わり、寝泊りをしています。
コルカタ(カルカッタ)について
https://earth.google.com
まず、コルカタは昔はカルカッタの名称で知られており、(マドラス、ボンベイ、カルカッタで有名のカルカッタ) バングラディッシュの西側に位置しています。 人口:1482万人 (近郊を含む都市圏)でデリー、ムンバイに次ぐ3位 言語:ベンガル語 宗教:ヒンドゥー教徒が約80%弱 (イスラム教徒が約20%)
インド人(コルカタ)の気質や環境
まず自分は生活環境に驚きました。 とにかく、うるさい、人が多い、暑い、そして動物園的な臭いが.... 日本での生活に慣れているせいか、こう感じてしまうのは仕方ないです。でもまぁ新宿とか渋谷だって考えてみれば同じようなもんなのかな、と感じたりしました。 また、英語は通じますが、現地人はかなりベンガル語訛りが激しかったです。 彼らも英語は完璧には話すことができず『ん??』と思うことが何度もありましたが、文法や発音などは全く気にせず、自分の意見を伝えるためにガンガン英語を喋ろうとする姿勢を強く感じました。 正直こういった姿勢は日本人にはみられないもので、これは自分も含め、多くの日本人がいつまでたっても英語を話すことができない理由なのかな、と感じました。
ダキ DHAKI
IIMCのインドボランティアの一環として、コルカタから少し離れたダキという田舎町にあるIIMCの支部へ行くというものがあります。ダキは、ベンガル湾内のガンジス川デルタに存在するサンダーバンス諸島に存在します。この地域は、コルカタとは全く異なり、豊かな自然に囲まれたとても静かで過ごしやすい環境でした。
ボランティアをしてみた その1
医療ボランティアと言っても、実際に施術をするわけではなく、薬の塗布、バイタル測定といった簡単なものでした。このダキには医療機関ほとんどなく、このIIMCの支部がボランティアで週に1度医療を無償で提供しているというものでした。症状的には、白癬菌によるものが多かったです。正直なところ、薬を処方するわけではなく、毎日塗布できるわけではないので効果は期待できないと感じました。また、教育的な面でも、なぜこのような症状になっているのかを患者自身が理解しているとは到底思えませんでした。やっていることの意義、意味そして、教育、インフラの整備の重要性などについて、様々なことを考えさせられました。
ボランティアをしてみた その2
もうひとつ、自主的なボランティア活動のひとつとして、IIMCの裁縫部門のスタッフにブックマークを作ってもらうように依頼し、それを日本へ持ち帰り販売、そこで得た金額をそのまま寄付するということもしました。ここで困ったことは、現地の人々は基本的に英語を理解できないということです。理解できても少ししかできないので、今回はGoogle翻訳を駆使してベンガル語でカンペを作り、コミュニケーションを取るよう頑張りました(上の写真)。
生地やデザインを作成し、上の写真のようなステキなブックマークを作っていただきました。
インドの歯科事情(貧困地域)
自分は現在、歯科医ということもあり、貧困地域における歯科治療の現状にも興味があったため、IIMCで行われている歯科治療を見学させて頂きました。歯科治療に関しては日本と比較して、滅菌操作や治療の丁寧さに大きな差があった。 また、オートクレーヴ的な?滅菌できるのかどうかわからない機器や、釘を抜くかの如く抜歯を行う看護師さん、そして、なによりプライバシーの概念が微塵もないことにもカルチャーショックを受けました。
しかし、ここが先進国ではなく、インドの中でも貧困地域ということを考えると、上記のことは納得でした。治療法の選択肢が非常に限られており、医療システムも含めてまだまだ改善の余地があることを大いに考えさせられました。因みに、治療法は抜歯or経過観察のみでした。以下に気づいた点を挙げます。
- プライバシーの概念はない
- 抜歯時麻酔はしていた
- 注射針は患者ごとに変えていた
- 滅菌/消毒という概念は一応ある
- 治療法の選択肢が2択(貧困地域)
- 看護師が抜歯を行っていた
- 歯科医は指示を出すだけだった
- 歯の叢生の改善のために、犬歯抜歯を行なっていた
ボランティアって、結局なんなのだろうか
ボランティアというと聞こえはいいですが、実際行ってみるといろいろなこと考えさせられました。今回の海外ボランティアに限って言えば、
- 自分たちがやっていることは、ある意味で彼らの文化を壊すことにも繋がるのでは?
- 現地にいる人達、例えばインドで路上生活をしているが不幸な人達だと誰が決めたのか?
- 言うなれば、自分が貧困やその状況に陥らないが故に疑似体験をしに行く場所なのでは?
- 一時的な支援をしたところで、根本問題の解決にはならない。教育やインフラをしっかり整備して、途上国の人々が自身で動けるよう、意識改革の部分から始めなければならない。そうしなければ、永続的に変わらないのでは?
- ボランティアを体験することで、別の視点が持てる様になるかもしれないが、結局は『持ってる人たち』の自己満足なのではないか?
これらのことは、よくネットや本で言われていることですが、今回のインド派遣で実際に体験をしてみることで、より真剣に考える機会を頂けました。
また、インドのボランティア団体の方も、先進国の人々が来ることによって(今回の自分がしたDonationのように)お金を得ることができるため、『先進国の人たちのボランティアを経験したい欲』と『発展途上国の人たちの先進国からお金を得たい欲』が見えないところでマッチしているようにも感じました。
しかし、実際にボランティアに参加することで困っている人に感謝されたりすることは、自分としても純粋に嬉しかったですし、現状の生活を見ると、少しでもQOLが向上するための力になれたらいいなとか、思ったりします。
ボランティアとは、ネットで調べてみますと
自分から進んで社会活動などに無償で参加する人や活動のこと
のような定義が出てきました。無償で何かをし続けるということができる人は、ある一定数は存在するかもしれませんが、現実問題としては物資の供給や人員の確保など無償で補充してゆくのは、難しいのではないかと思います。
よって結局は、上述したようなボランティアに参加する側の人達と、ボランティアを受け入れる側の人達との間で、ある種のビジネス的な関係が暗黙のうちに成り立っているからこそ、このIIMCのようなボランティアが成立し、かつ継続できているのではないかと感じました。
最後に
自分は、30代になってからもう一度大学生となりました。同世代の友人達は家庭や家族を築いていて、焦る気持ちもなくはないです。
また、生涯年収を考えれば、そのまま大人しく歯医者を続けていた方が良かったんじゃないかとか、また一から勉強する意味ってあるのかな?とか自分でも、また周りの人からも直接的、間接的にせよ耳にします。
いろんな意見はあるとは思いますが、30代になってからもう一度大学生になり、勉強をさせて頂けることに非常に感謝しています。また、学士編入をしていなかったらできなかったであろう経験も沢山することが出来ます。
もし医学部学士編入を考えている方がいらっしゃるのであれば、合格した暁には、新しくこのような海外ボランティアの経験等もできるということを知って頂けたらと思います。やはり会社勤めでは難しいですよね。もし医学部学士編入をすれば、このようなことも可能になるんだ、という一例でした。日々の勉強のモチベーションに昇華してもらえたらいいなと思います。