ラクトースオペロンをわかりやすく解説!〜グルコース濃度による転写制御〜
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医学部学士編入生命科学試験では、原核生物の転写調節機構としてラクトースオペロンの制御が頻繁に出題されます。この記事ではラクトースオペロンに関する頻出事項をわかりやすく解説し、この分野でほぼ満点が取れるように書いてあります。

穴埋め問題

ラクトースオペロンはフランス人である( 1 )( 2 )により発見され、1965年にノーベル生理学医学賞を受賞した。ラクトースオペロンはlacZYA とも言われているように、lacZlacYlacA のラクトース代謝に関わる3つの構造遺伝子が共通のプロモーターによって支配されている。グルコースとラクトースの存在下では、オペロンの転写はほとんど開始されない。これはラクトースオペロンのプロモーターの転写活性が( 3 )( 4 )の結合能が低いことが挙げられる。プロモーターに( 4 )が結合するためには、( 5 )サイトにアクチベーターである( 5 )タンパク質が結合することが必要であるが、そのためには( 5 )( 6 )が結合する必要がある。グルコースのみ存在下ではグルコース代謝物により( 6 )の生成は阻害される(この機序はよくわかっていない)ため、プロモーターの活性化が起こらない。つまりオペロンの転写は事実上起こらない。
lacZ がコードするのは( 7 )であり、二糖類のβガラクトシドを単糖に分解する。つまりラクトースをグルコースとガラクトースに分解する反応を触媒する。ラクトースが存在しない場合にはオペロンの転写は起こらない。ラクトース非存在下では、プロモーター近傍のオペレーターに2量体である( 8 )が結合しており(注1)、プロモーターへのRNAポリメラーゼが接近するのを物理的に妨げている。ラクトースのみ存在下ではその代謝産物である( 9 )がリプレッサーヘ結合すると、リプレッサーは( 10 )を受けることにより立体構造を変え、オペレーターから離れる。しかし、上述の通りラクトースオペロンのプロモーターは活性が低い為、転写はあまり起こらない。これに加えて、グルコース(-)によりcAMPが生成され、CAPタンパク質がCAPサイトに結合できる為、ラクトースオペロンのプロモーターが活性化される。以上から、( 11 )場合にのみこのオペロンの転写が事実上起こることがわかる。(注2)
ラクトースオペロンが転写されてできたmRNAは( 12 )構造をとる。lacZ はβガラクトシダーゼをコードしていたが、lacY( 13 )をコードしている。パーミアーゼとは膜結合タンパクで、取り込み担う。ここでは、βガラクトシドであるラクトースを取り込む。

【解答】

1.2.François Jacob、Jacques Monod(フランソワジャコブ、ジャックモノー)、3.低(く)、4.RNAポリメラーゼ、5.CAP、6.cAMP、7.βガラクトシダーゼ、8.リプレッサー、9.アロラクトース、10.アロステリック調節、11.グルコースが存在せず、ラクトースのみ存在する(場合)、12.ポリシストロニック(構造)、13.ラクトースパーミアーゼ (βガラクトシドパーミアーゼ)

参考URL:ジャコブ(https://ja.wikipedia.org/wiki/フランソワ・ジャコブ)

参考URL:モノー(https://ja.wikipedia.org/wiki/ジャック・モノー)

注1:lacリプレッサーはポリペプチドとしては4量体であるが、機能的には2量体であるので2量体と覚える。

注2:グルコースとラクトースがともに存在している場合でも、ラクトースオペロンのプロモーターは活性が弱いというだけであって、ラクトースオペロンは少しではあるが発現している。

記述問題対策1

オペロンとは何か簡潔に説明せよ。

【解答】

共通のプロモーターに支配される遺伝子群

 

記述問題対策2

ラクトースオペロンはラクトース存在下では転写活性が上がる理由を述べよ。(頻出問題)

【解答】

ラクトース非存在下では、プロモーター近傍にあるオペレーターにリプレッサーが結合しており、物理的にRNAポリメラーゼの接近を妨げている。ラクトース存在下では、ラクトース代謝物のアロラクトースがリプレッサーに結合することで立体構造変化を起こし、リプレッサーがオペレーターから離れ、RNAポリメラーゼがプロモーターへ結合することができるようになるから。

【ポイント】

●ラクトース非存在下→リプレッサーがオペレーターにくっついていて、RNAポリメラーゼがプロモーターに結合できない。

 

 

●ラクトース存在下 →アロラクトースがリプレッサーに結合して構造変化させて、オペレーターから引き剥がす。

 

しかし実際は、ラクトースオペロンのプロモーターは転写活性が低く、これだけではほとんどオペロンは事実上発現していない。下の問題2のように、グルコース(-)でcAMP-CRP複合体がCAPサイトに結合することでプロモーターを活性化させる必要がある

 

 

 

記述問題対策3

グルコース濃度が高濃度の時、ラクトースオペロンの転写は事実上起きない理由を説明せよ。(頻出問題) 

【解答】

ラクトースオペロンのプロモーターは転写活性が低く、CAPタンパク質のCAPサイトへの結合によって転写活性が上がる。一方、CAPタンパク質のCAPサイトへの結合は、cAMPがCAPタンパク質へ結合することが必要である(cAMP-CRP複合体の形成)。グルコースが高濃度の時、グルコースの代謝産物がcAMPの生成を阻害する為、プロモーターの活性化が起こらない。

 

【ポイント】

●ラクトースオペロンのプロモーターは活性が低い!

 (だから事実上起きない!言い方を変えればちょっとは起きてる。)

●活性化する為には、CAPタンパク質がCAPサイトに結合することが必要。

●グルコース高濃度では、グルコース代謝物がcAMPの生成を阻害する為、cAMP→CAPタンパク質へ結合できない。だからプロモーターの活性化が起こらない。

(補足)

CAPタンパクはサイクリック-AMP受容体タンパク質(cyclic-AMP receptor protein)の意味でありCRP とも呼ばれる。

cAMPはCAPタンパクと結合するが、これをcAMP-CRP複合体と呼ぶ場合がある。下の類題は「cAMP-CRP複合体」を前面に出した解答。

 

 

記述問題対策4

グルコース濃度の高い時、大腸菌のラクトースオペロンの転写が開始されることはほとんどない。その理由を細胞内のcAMP濃度に触れつつ説明せよ。(類題 名古屋大)

【解答】

ラクトースオペロンのプロモーターは転写活性が弱く、CAPタンパク質のCAPサイトへの結合によって転写活性が上がる。一方、CAPタンパク質のCAPサイトへの結合は、cAMPがCAPタンパク質へ結合しcAMP-CRP複合体を形成することが必要である。しかし、グルコース濃度が高い時、グルコースの代謝産物によってcAMPの生成が阻害され、cAMP-CRP複合体が形成されず、ラクトースオペロンのプロモーターは活性化されない為、転写がほとんど起こらない。

問1と同じ様にプロモーターが弱いCAPタンパク結合できない結合するにはcAMP-CRP複合体になる必要あり!の流れで書くとまとめやすいです。

●ラクトースオペロンのプロモーターは活性が低い!

●活性化する為には、CAPタンパク質がCAPサイトに結合することが必要!

●グルコース高濃度では、グルコース代謝物がcAMPの生成を阻害する為(機序はまだわかっていない)、cAMP→CAPタンパク質へ結合できない。だからプロモーターの活性化が起こらない。

 

記述問題対策5

ラクトースオペロンのプロモーターはグルコースがない時に活性化される理由を簡潔に述べよ。

【解答】

アクチベータータンパクであるCAPタンパクがCAPサイトに結合し、プロモーター活性を高めるから。

【ポイント】

基本的には問1を簡潔に述べたもの。「簡潔に」とあるから、CAPがCAPサイトに結合できてプロモーター活性を高める、くらいでいいと思います。

 

記述問題対策6

プロモーター/オペレーター/リプレッサー/アクチベーター/レギュレーター/ターミネーター について簡潔に説明せよ。

【解答】

プロモーター(領域):promoter
 遺伝子の上流に存在し、RNAポリメラーゼの結合領域のこと。
 ●オペレーター(領域):operator
   プロモーター近傍にある、リプレッサーの結合領域のこと。
 ●リプレッサー(転写調節因子):repressor
   RNAポリメラーゼがプロモーターへ結合するのを抑制するもの。
 ●アクチベーター(転写調節因子):activator
   プロモーター上流のアクチベーター結合領域に結合し、RNAポリメラーゼがプロモーターに結合するのを促進させるもの(プロモーターに近接していなければ、DNAが屈曲しアクチベーターとプロモーターが近接する)
インデューサー(転写調節因子):inducer
    リプレッサーに結合し立体構造変化を起こさせ、オペレーターからリプレッサーを取り除くもの(ex アロラクトース)
 ●ターミネーター(領域):terminator
   遺伝子の転写を終結させる領域
cf エンハンサー(領域):enhencer    真核生物に存在する、ある遺伝子の転写活性を促進する塩基配列
cf サイレンサー(領域):silencer       真核生物に存在する、ある遺伝子の転写活性を抑制する塩基配列

【ポイント】

上記の転写調節因子とその結合領域の名前の対応は原核生物に関してのものであることに注意!真核生物では名前の対応が微妙に異なる。原核生物では転写因子は存在しなくて、転写調節因子リプレッサーはオペレーター(領域)に結合し、アクチベーターはアクチベーター領域(名前がない)に結合する。一方で、真核生物では転写因子は存在しており、転写調節因子リプレッサーはサイレンサー(領域)に結合し、アクチベーターはエンハンサー(領域)に結合する。名前の対応に注意すること!

転写調節因子 転写調節配列領域
原核生物 リプレッサー↓ オペレーター
アクチベーター↑ 名前なし
真核生物 リプレッサー↓ サイレンサー
アクチベーター↑ エンハンサー
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