Hardy-Weinbergの法則
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今回は遺伝学の分野では頻出事項であるHardy-Weinbergの法則に関するまとめです。医学部学士編入生命科学試験では、計算問題と絡めて非常によく出題されています。計算ミスをしやすいポイントがいくつかありますので、定義を確認して問題を解きながら学んでいきたいと思います。

問題1 言葉で説明する問題

Hardy-Weibergの法則について簡潔に説明せよ。(頻出問題)

【解答】

ある個体群に2つの対立遺伝子Aとaが存在し、各々の遺伝子頻度がp:q (p + q = 1)である場合、その遺伝子頻度は世代を超えて一定であるという法則

【ポイント】

キーワードは対立遺伝子遺伝子頻度世代を超えて一定 である。

対立遺伝子:相同染色体上で同じ遺伝子座に存在する遺伝子のこと。

問題2 数式を用いて説明する問題

Hardy-Weinbergの法則について数式を用いて説明せよ。(頻出問題)

【解答】

ある十分大きな個体群に対立遺伝子Aとaが、遺伝子頻度 pとq (p + q = 1) で存在している時、任意交配によって生じる次世代の各遺伝子型AA、Aa、aaの遺伝子頻度は各々p2、2pq、q2となる。この世代の遺伝子Aの遺伝子頻度を考えると、

$$遺伝子Aの遺伝子頻度 = \frac{2 \times p^2 + 2pq}{2p^2 + 2 \times 2pq + 2q^2} = \frac{2p(p + q)}{2(p + q)^2} = p$$
となる。同様に、
$$遺伝子aの遺伝子頻度 = \frac{2 \times q^2 + 2pq}{2p^2 + 2 \times 2pq + 2q^2} = \frac{2q(p + q)}{2(p + q)^2} = q$$
であり、遺伝子A、aの遺伝子頻度は共に次世代においても一定となる。

【ポイント】

計算は遺伝子頻度、つまり確率を用いているため、確率を確率で割っているように感じられるので気持ち悪いかもしれない。ただ、個体の数をNとして、個体群の持つアレルの数を考えて計算してみるとわかりやすい。

$$遺伝子型AAの個体数 = N \times p^2 $$

$$遺伝子型AAの個体の持つ、遺伝子Aが乗っているアレルの数 = 2 \times N \times p^2 $$

となる。同様に、

$$遺伝子型Aaの個体数 = N \times 2pq $$

この2pqの2は(A、a)が(父、母) or (母、父)の2通りあるからである。

$$遺伝子型Aaの個体の持つ、遺伝子Aが乗っているアレルの数 = 1 \times N \times 2pq $$

となる。よって、遺伝子Aが乗っているアレルの総数は

$$遺伝子Aが乗っているアレルの総数 = 2Np(p + q) (式1) $$

また、この個体群のアレルの数は、遺伝子型AA、Aa、aaの個体の順に

$$ 個体群のアレル総数 = 2 \times Np^2  +  2 \times 2Npq + 2 \times Nq^2  = 2N(p + q)^2 (式2)$$

となる。よって、(式1)と(式2)からNが分子と分母で約分されて消え、

$$遺伝子Aの遺伝子頻度 = \frac{ 2Np(p + q)}{2N(p + q)^2} = p $$

となる。

問題3 成立条件について

Hardy-Weinbergの法則の成立条件について説明せよ。(頻出問題)

【解答】

①個体群の個体数は十分に大きい。(遺伝的浮動がない)
②自由交配である。(性選択がない)
③自然選択がない。(中立進化である)
④他の個体群と流入、流出がない。(遺伝子流動がない)
⑤突然変異が起こらない。
【ポイント】

遺伝的浮動とは、無作為抽出によって遺伝子プールで起こる対立遺伝子頻度のこと。性選択とは、異性をめぐる競争を通して生じる進化のこと。中立進化とは、分子レベルでの遺伝子の変化は大部分が自然淘汰に対して有利でも不利でもなく中立であり、突然変異と遺伝的浮動が進化の主因であるとする説。木村資生が提唱した。

 

 

問題4 応用問題

以下のデータに関してHardy-Weinberg の平衡が成立しているか、統計学的に推察せよ。(参考 Wikipedia)
 遺伝子型 AA Aa  aa 合計
個体数  1469 138  5 1612 (=n)

【解答】

帰無仮説:H0 = 「得られた個体群における各遺伝子型の遺伝子頻度は、Hardy-Weinberg の平衡と差がない」

対立仮説:H1 = 「得られた個体群における各遺伝子型の遺伝子頻度は、Hardy-Weinberg の平衡と差がないとはいえない」

遺伝子A、遺伝子aの遺伝子頻度をp、q (p + q = 1)、各遺伝子型の個体数を、AA、Aa、aaとおくと

$$ p = \frac{AA \times 2 + Aa}{AA \times 2 + Aa \times 2 +aa \times 2 } = \frac{1469 \times 2 + 138}{ 1612 \times 2} = \frac{3076}{3224} = 0.9540 $$
$$ q = \frac{aa \times 2 + Aa}{AA \times 2 + Aa \times 2 +aa \times 2 } = \frac{5 \times 2 + 138}{ 1612 \times 2} = \frac{148}{3224} = 0.0459 $$

各遺伝子型の期待度数を求めると、AA:Aa:aa = p2:2pq:q2 であるから、表の値が個体数であることに注意して(nをかけて)、

$$ np^2 =  1612 \times 0.954^2= 1467.1 $$
$$ 2npq = 2 \times 1612 \times 0.954 \times0.0459 = 141.17 $$
$$ nq^2 = 1612 \times 0.0459^2 = 3.396 $$
 遺伝子型 AA Aa  aa 合計
個体数  1469 (1467.1) 138 (141.2)  5 (3.396) 1612 (=n)
$$\sum\frac{(O - E)^2}{E} = \frac{(1469 - 1467.1)^2}{1467.1} + \frac{(138 - 141.2)^2}{141.2} + \frac{(5 - 3.396)^2}{3.396} $$
$$ = 0.83 < 5.9915  (自由度2  有意水準0.05)$$
よって、H0は棄却されない。
(注意:aaの場合に期待度数が5未満であり、小さいので本来であればフィッシャーの正確確率検定で検証するべき)
χ2検定に関してはコチラ↓
[blogcard url="http://igakubugakushi.com/chi-squared-test"]
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